大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和32年(ラ)306号 決定

一、記録によれば、次の通りの事実を認めることができる。

(一) 本件仮処分命令(債権者抗告人両名、債務者武田豊三郎間の東京地方裁判所昭和二八年(ヨ)第六二三二号不動産処分命令)は、別紙目録記載の土地及び建物(本件土地建物)につき、昭和二八年八月二八日に発せられたもので、その主文は「債務者の本件土地及び建物の占有を解いて債権者らの委任した東京地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。執行吏は、その現状を変更しないことを条件として債務者にその使用を許さなければならない。但しこの場合においては、執行吏は、その保管に係ることを公示するため、適当の方法をとるべく、債務者は、この占有を他人に移転し、又は占有名義を変更してはならない。」というにあり、そして、同月二九日、その執行がなされて、本件土地及び建物は、右仮処分命令の趣旨に従つて、執行吏の保管に移された上、債務者武田豊三郎に使用が許されていた。

なお、右仮処分に対しては、債務者武田豊三郎から異議の申立があつたが、昭和三〇年五月一六日抗告人ら勝訴(仮処分決定認可)の判決があり、また、武田豊三郎は、昭和三〇年一月二八日死亡し、武田とよ子、武田和夫及び松方嘉子の三名が共同相続して、右仮処分債務者の地位を承継したところ、同人らに対しては、抗告人両名の申請により、昭和三一年六月八日東京地方裁判所書記官から、本件仮処分決定についての承継執行文が付与されている。

(二) ところで、記録中の東京地方裁判所執行吏の仮処分点検調書謄本及び安里光代の報告書を綜合すると、相手方中森材木店及び相手方中森一生は、本件仮処分執行後である昭和二八年一〇月頃、当時生存中の仮処分債務者武田豊三郎から、本件土地の内、本件建物の敷地以外である部分の一三七坪五合二勺七五を賃借して引渡を受け、そこに、木造二階建家屋一棟建坪約二一坪、堀立小屋一棟建坪約一五坪及び大工の下小屋一棟建坪約一五坪を建築し、これらの建物を、相手方中森及びその家族使用人の住居、相手方会社の事務所及び材木置場等に使用し、なお、右建物敷地以外の部分の空地は相手方会社の材木置場に使用し、以て相手方両名が右一三七坪余の土地を占有していることを認めることができる。

(三) そして、抗告人両名が本件承継執行文付与を申請したのは、右相手方両名が新築した建物を除去し、かつ相手方両名の右占有を排除して本件土地建物を原状に回復せしめるために必要であるとの理由に基ずくものである。

二、ところで、前段認定の本件仮処分命令の如く、現状不変更を条件とする債務者の使用を許した仮処分命令には、使用を許された債務者に対し目的たる土地建物の現場不変更の不作為を命ずる趣旨を包含するものと解すべく、又かかる債務者が右仮処分の執行がその効力を存続している間に、目的たる土地建物の全部又は一部を第三者に賃貸し、その第三者が、これを占有している場合には、その第三者は、右賃借物件に関して、民事訴訟法第二〇七条第二〇一条によつて仮処分命令の効力を受ける債務者の承継人と解すべきである。故に、相手方両名の如く、仮処分中の本件土地の一部を債務者から賃借し、その地上に建物を新築して該土地を占有している者に対しては、仮処分債権者たる抗告人両名としては、民事訴訟法第四九七条の二第五一九条の準用により、相手方両名に対する承継執行文の付与を受け、なお同法第七三三条第一項民法第四一四条第三項により、いわゆる授権決定を得て、現状変更によつて現出された右新築建物を収去せしめ得るものと解すべきであるし、また、かくの如き手続によることを要するものと解する。(東京高等裁判所昭和三三年(ラ)第三七六号、同三四年四月一五日第一民事部決定参照)

以上の点に関しては、右判示の見解を否定し、右の如き仮処分の目的物の主観的又は客観的な現状の変更は、仮処分不動産の保管者としての執行吏がその職務上の権限として、これを原状に回復せしめ得るものであるとの見解及び新なる仮処分の執行によるの外原状に回復せしめる方法はないとの見解があるが、これらはいずれも当裁判所の採用しないところである。

三、以上の次第で、本件仮処分の目的たる土地の内、相手方両名が占有している前記地域に関する限り、抗告人両名の本件承継執行文付与の申立は理由があるもので、これを排斥した原裁判所書記官の処分に対する抗告人の異議を却下した原決定は不当であり、本件抗告は理由がある

(内田 鈴木 入山)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!